トップ10%論文とか選択と集中の話と、OISTのノーベル賞受賞ネタについてモヤった話

OISTのペーボ教授がノーベル賞を受賞されたので、またOISTスゲー、財務省はクソだ、みたいな話がまん延してると思うので、ひねくれもののOISTウォッチャーとしては、逆張りネタを投下したくなるので、今回のネタは最近話題の10兆円ファンドとその選考指標になったらしいトップ10%論文の話。

 

政府がお金の投入先を、Top10%論文、要するに質の高いと言われている論文をたくさん出してるところに投入しますって言って、また選択と集中かよ、って批判されてるという認識なんだけど、そこは良いかな?

でもね、ちょっと待って、アカデミアの人達、OISTの成功はみんなで絶賛してたよね?

東大越えで世界9位ってあれ、「質の高い論文の割合」で東大を越えたよ、という話だったのだけど、今回10%論文を批判してる人は当然OISTも批判するんだよね?

 

とひねくれた文章ばかり垂れ流してもしょうがないので、データを出そう。下記の図は内閣府が出してるOISTの成果を評価したもの(ここの概要のp.3)を再構成したものなのだけど、これがまさに今話題のTop1%論文の割合なのよ。ちなみに世界9位の話も、NatureのNormalizedIndexという、質の高い論文の「割合」の話ね。その辺の詳細は去年書いた。

で、東大越えって言ってるのはこの縦軸でほんの少し勝ったよって話ですわ。なんかさ、もっとずば抜けて越えてんのかと思ったら、高々0.5パーセント越えたのを大騒ぎしてるだけって事だったのね。ちなみに理研とNIMSは縦軸でもOIST越えです。

OISTを10個作ってみたよの図

 

今回もそうだけど、OISTスゲー的なニュースが出ると、もうOIST10個くらい作ったらいいじゃん、的な反応が出るので、実際にこの図でOISTを10個作ってみたよ。どうなったかって?

答えは「理研がもう一個できた」です。

ちなみに予算もだいたい200億と2000億なので10倍くらい、まー良く出来てる。でもOISTの場合はノーベル賞が1個付いてくるからそういう意味ではOISTの圧勝だね。

なお凡例全部書くの面倒だったので、その他のプロットの該当大学がどこか気になる方は上記の内閣府の元ネタを参照してくだされ。

 

選択と集中ばっかりしないで幅広い研究ですそ野を拡げるべし、っていうのはこの図で言うと横軸の延びをいうのだろうけど、そういう意味では、年間予算が2500億円でOISTの予算の12倍ちょいで、国からの交付金に至っては870億なのでOISTの4倍強しか予算投下されていないのに、横軸でOISTの40倍出してる東大は素晴らしい業績を残してるってもっと褒めてもらっても良いのではないかな?

 

もし財務省のTop10%論文の指標を批判するのであれば、OISTに予算を集中するのも批判しなきゃおかしくないか?それと安全保障もそうだよね、知の流出がとか国益を守れ、とか言う割に税金で大量の外国人をお抱えするOISTは手放しで絶賛する。こういうダブスタを見てしまうと、結局はみんな自分のところにお金が回ってきて欲しいだけなんじゃないかって思ってしまうんだよね。もしくはただ単に、日本には四季があってスゴイ、的な自己陶酔に浸りたいってだけなのか。

 

OISTの理事はノーベル賞受賞者を集めてって言ってたらついに現役教授がノーベル賞を受賞して、またぞろOISTスゲーが始まってるのだろうけど、この方着任してからこのかた何日間OISTに滞在したことがあるのだろう?OISTの人でこの方を現場で見たことある人どれくらいいるのだろう?というくらいには傍から見てると完全に客員感満載だったけど、一応ラボは持っていて、ポスドクとかもいるようなので、OISTの存在意義ってそういうところなんだろうなとは思う、いくらお金で肩書買った風だとしても、人脈とかそういうとこね。なので是非この先生には学生も取ってPh.Dを産んで欲しいと思います。ちなみに、着任時にとっても高額なシーケンサーが、っと誰か来たようだから、この辺にしておこう。

 

なお、着任後早々に、OISTの○○先生の論文がNatureに載りました!みたいなのは昔から日常的に見てきたので、それがノーベル賞になっただけでやり口はまったく同じで、むしろNatureよりも一般受けもするので、この先10年は、設立早々ノーベル賞受賞者を出した素晴らしい研究所、というネタで金を引っ張ってこれるわけで、これ以上コスパの良いやり口はないのではないだろうか。

 

今回のノーベル賞はMaxPlackらしいので、これは現学長コネクションで呼んだのかな。もうすぐ退任されるそうだけど、最後に華をそえたね。私は個人的にとても好きになれる方ではなかったけど、予算を削られる中でうまく乗り切って、狙ったわけじゃないだろうけど最後にノーベル賞持ってくるあたりは何か持ってる人なのだろうし、年収6000万円の価値はまさにこれですよね、長い間お疲れさまでした。

 

なお、ダブスタとか言ってるけど答えは簡単なんじゃないかと思っていて、こういうOISTみたいな選択と集中もやりつつ、一方で、すそ野を拡げる方面にも予算を付けようよってだけなんだよね。今はもうどっちにも付ける予算がないからどっちか一方でってなってるだけでさ。で、財務省選択と集中を選択して、それでOISTがノーベル賞を取って、客員なのにみんなそれでハッピーならもっともっと選択と集中を進めたら良いんじゃないかな、で、もうすそ野は諦めようよ、という話なんじゃないのかね、ものすごい雑な言い方をするとね。

 

それと、OISTの凄いところは、Top?%論文とかいう成果とか、凄い人を札束でぶん殴って連れてくるところとかだけじゃなくて、中の仕組みでスゴイ良いなと思うところはたくさんあって、そういうのもそのうち気が向いたら書こうと思う。そういう地味な話は話題にならんから誰も語らないし、何か書くとタイムスさんみたいに訴えられちゃったりするしね。

 

OIST:東大越え世界9位の影と闇と世界に伍する大学の話

最近、科学技術イノベーション会議の提言から、成功したOISTをならってどうとかいう話がまた増えてきたので、みんな何をもってOISTが成功したと認識してるか、気になって、この記事を書きました。

OIST(沖縄科学技術大学院大学)は、知ってる人の中では、短期間でスゴイ成果を出した、日本のアカデミア期待の成功事例、みたいに語られるけど、実際のところどうなの、特にその根拠になってるであろう、東大越えの世界ランキング9位を超深掘りする話です。超長いよ(笑)

 

前置き

OISTってまだ一般にはあまり知名度は高くないけど、アカデミアの中では短期間でえらい成果を上げた大学として認識されていると思う。OISTがメディアに登場するときには枕詞のように、東大越えで日本1位、世界で9位、という見出しがつきます。おそらく意図的にやっているのでしょうが、内容とは全く関係ないこともあります。最近の話題だと下記のような感じ。
https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00234/070800012/
https://globe.asahi.com/article/14382219
https://www.businessinsider.jp/post-235427

さて、おそらくこういう枕詞はOISTの成功を印象付けるための刷り込みを狙っているのだろうけど、タイトルでわざわざ「東大越え」ってマウント取るの、読んでるこっちが恥ずかしくなるんで、そろそろやめにしませんか、と思ってこのネタをまとめました。

この東大越え世界9位の元ネタになっているランキングはこちらで、同じ年の通常のNature Indexのランキングはこちら。OISTは431位です。

以下はこの9位にまつわるその他の情報です。

妄想の話

ここまでは単なる事実を列記しただけである。これ以降はさらに付加的なデータを読みつつ、「想像力」を働かせて書いた私の創作であり、私見です。

BRIDGEに入っている研究機関は、総合大学ではないので、THEのようなランキングには入ってこないし、理研やMaxPlanckのような研究専門の機関でもなく規模も小さい、要するに既存の評価軸ないしはランキングなどには引っかからない可能性が高い。
でも、やはり名前を売り、特に一般受けするにはわかりやすいランキングが欲しいところ。無いなら作ってしまえば良い、というのは一つの考え方である。OISTが創設10年もたたずに東大を超えて世界9位、という「成果」は、最初に述べた通り、ランキング発表から2年以上経っても、OISTの紹介記事には内容にかかわらず枕詞のように使われてきており、一般の人への認知度および高い評価に相当貢献してきたと思われる。2件の業務委託がランキングに関係あるのかどうかは知る由もないですが、もしこのランキング9位という「成果」がたかだか500万円程度の支出で狙って作られたものであったとすれば、広報戦略としては大成功だと思う。そして、おそらくDimensionsという商品の認知度を上げたかったDS社ともWin-Winの関係だったのではないだろうか?

(なお評議員が関係する会社に業務委託を発注することが利益相反になるのかどうかは知らないし、似たような発注を入札基準以下の2回に分けている理由も知らないけど、なんでだろうね?)

財務省執行調査

一方で、過去に1回しか発表されていないランキング「だけ」にいつまでも頼っていられないだろう、というのも確かだと思う。

実際、一般的な評価の高さとは裏腹に、財務省執行調査では、コスト高が指摘されており、それを反映したのかは知りませんが、OISTの中の人からは、ここ1-2年で予算がきつくなってきたという声が聞こえ始めている。この執行調査に対して、せっかく成果を出しているOISTを批判するなど財務省は何を考えているんだ、みたいな再批判も多かったように記憶しているが、ちょっと待ってほしい、財務省は金出さないよなんて言ってないしOIST潰すなんてことも言ってない、経営効率悪すぎない?外部資金取れてないよ?という指摘をしているだけである。財務省執行調査の中身については、的外れだなと思う部分も多いのだけど、ちょっとそれはまた別の話なので、ここではツッコまない。が、おそらく財務省側は世界9位!みたいな一部だけ切り取った成果には騙されなかったという見方もできるので、やはり官僚はそんなにバカではなかったといったところか。それと、納税している日本国民として、過去1回しか発表されていない世界9位という指標だけで、OISTスゴイ、日本もっとやれ、で満足して良いのだろうか?という疑問があり、もう少しNature Indexを深堀りしてみようと思う。

そもそも82誌に絞った評価軸ってどうなのよ?

Normalizedは割合だけども、そもそも82誌に絞った通常のNatureIndexで国や機関を評価するのってどうなのよ議論になるので、おそらくインパクトファクター的な文脈で散々色々なところで議論されていると思うし、NatureIndex自ら、ランキングのページの最後に下記のような注意書きをしているので愚問っちゃ愚問。

Nature Index recognizes that many other factors must be taken into account when considering research quality and institutional performance; Nature Index metrics alone should not be used to assess institutions or individuals.

要するに、単なる一指標だからそれだけで評価すんなよ、と。まー当たり前だよね。なので、ここでは82誌縛りの是非の議論はせず、標準のランキングとNormalizedの違いに絞って話を進めよう。

Normalizedは2019年しか発表されていないので、当時の標準ランキングと比較しよう。通常ランキング上位は、やはり規模の大きいところが並んでおり、これは82誌に絞ったといっても所詮は論文数のカウントなので、規模が大きくなれば上に出てきやすいのは当たり前である。そこでなんとか規模で正規化(Normalized)できないか、と試行錯誤した結果が、正規化ランキングであると。で、その正規化のために持ってきたのが、DS社のDimensionsという全論文を網羅したDBであると。*2

Normalized share = (82誌への掲載寄与度)/(全論文への掲載寄与度)

それと、Normalizedのランキング上位が、自然科学系に特化した研究機関っていうのも、82誌が自然科学系で、分母の全論文も自然科学系に絞ってはいるようだけども、切り分けが曖昧な論文誌だって出てくるだろうし、やはり文系も持ってる総合大学が不利になるのは自明じゃないかと。(別の言い方すると、分母の取り方でいくらでもランキングは操作できそうだな、で、分母は外注先のDS社が持ってると)

ランキング上位からの脱落者

ここで、通常ランキングの上位機関が、Normalizedのランキングではどうなっているかを見てみると、1位、3位、4位のCASとMaxPlanck、CNRSは、正規化ランキングでは100位圏外となっています。逆に通常ランキングでも上位、Normalizedでも上位、という大学はというと*3、なんとなーくですが、米国の大学が多いような傾向が見て取れます。

Normalizedの計算式の分子が通常ランキングの数字なわけだから、Normalizedで順位が下がる機関は要するに分母がデカい、ということなので、言い換えれば、NatureIndexに入っているような雑誌にこだわらず、いろんな雑誌で成果を発表してる、とも言えるはずである。逆に、両方で上位というのは、規模も大きいけど、こういう著名論文誌にフォーカスしてる研究者が多いとも言えるかと。で、後者に米国の大学が多いというのも、米国のグラント至上主義みたいなのを考えるとなんかしっくりくるというか。

こういうのって、どっちがスゴイかって話じゃないと思うんだよね、MaxPlanckっぽいやり方だってあるし、米国の有名大学のようなやり方もあるし、というかそういうのって狙ってやってるわけじゃなくて、そこで研究者が生き残るにはどういう戦略でいるべきかを追求した結果として、こういうランキングの特性に表れてきたってだけなんじゃないかなーと。(ドイツと米国の研究環境の違いについては、MaxPlanckの小松先生の記事が面白い)

あと、最近中国が論文の質でも米国を抜いてトップになったというニュースがありましたが、CASはNormalizeすると圏外になるので、それはそれは膨大な量を出してる、ということになるのかな。

また、82誌のような有名誌じゃない論文誌に載せるくらいなら論文出さなくて良いよ戦略をやれば、Normalizedランキング上位に入れるわけですね。(OISTがそうしているとは言ってない)

まー要するに、NatureIndex自ら公言しているように、この指標だけで大学の優劣を語るのは良くない、というだけのことで、その一点において「東大越え」をOISTの枕詞にする恥ずかしさが伝わると思うのだが。

質の高い論文って表現、なかなかにミスリーディング

元々のランキングはNormalizedという表現で、どこをどう読んでも「質の高い」に繋がるような表現はない。定義は、前項に書いた通りで、これを質の高い論文ランキングと意訳するのは、82誌以外を質が低いと言っちゃってるのと同義なのだが、この邦訳は誰が考えたのだろう?

初出がどれか分からないけど、おそらくここらへんかなーと思う記事がこれ。そっからreferされてる英文リリースがこれ

ここで、Nature Index算出根拠の82誌を「prestigious scientific journals」と呼んでいて、それを全論文寄与度で割ったから、「質の高い論文の割合」という意訳が出てきたわけだ。うーん、prestigiousが質の高いかー、まーこの時点で相当意訳だし、82誌以外は質が低いってことよね。

あと、「割合」というのがとても大事で、最初のころのリリースを辿ると、結構正確に「質の高い論文の割合が多い」という表現をしている。それが時が経つに従い、「割合」が抜けて、「質の高い論文ランキング」という表現に変化していったのではないかなーと想像できる。

細かいようだけど、定義からすると、82誌を質の高い論文誌というのであれば、通常のNatureIndexが「質の高い論文数ランキング」で、Normalizedが「質の高い論文の割合ランキング」ということになる。

前項に書いたように、確かにこの82誌は一流誌だろうけど、NatureAsia初出の日本語記事で、「世界の上位の有名な研究機関が正規化ランキングで順位を落としている」という表現は、82誌の割合が大きい方が偉い、みたいな表現で、単なる一指標と言っておきながらそういう表現するのはそこそこミスリーディングだろう。

ただ、これはNatureが出してるプレスリリースだから、自分とこの雑誌を「質の高い」と持ち上げる記事を書くのは当然で、単なるポジショントークなわけだ。だからOISTがことあるごとに東大越え、世界9位ってやるのも、ポジショントークなんだけどさ、なんかもう2年も前のネタをこうやってずーーーーっと使い続けてるとさ、えーと、それしか成果無いの?って勘ぐりたくなるわけだ。

ちなみに現OIST学長のPeter Gruss氏は前職がMaxPlanck協会会長なんだけど、このネタを言えば言うほど、Normalizedランキングで100位以下に「順位を落とした」前所属は暗に質の低い論文の割合が多いと言っちゃってることと同義なことには気付いているのかな?

別のランキング操作の話

あと、似たようなランキング操作的なネタがYouTubeにあったので、参考までにそちらも解説してみる。こちらはTHEのランキングの話で、世界のランキングだと国内1位は東大なのに、日本版ランキングだと東北大が1位になってて、おかしいんじゃねーかー、みたいな話。これ、答えは簡単で、公式のプレスリリースに書いてあるの。

世界版ランキングでは「研究力」を軸に据える一方で、日本版ランキングは、日本の教育事情により即した形で大学の魅力や特性が表れるように、大学の「教育力」を測る設計となっています。

だから、その分野で高得点を並べてた東北大が1位になっただけだし、もっと言うとこれベネッセとTHEが協力して出してると。はい、これもポジショントークだよね、ベネッセからしたら、顧客である高校生以下に向けたメッセージを出したいわけだから、教育力ランキングが欲しかったと、それだけのこと。ただね、もしこれで東北大学がベネッセに外注してて、かつことあるごとに「東大超えて日本1位の東北大が」とかやってたらそこらじゅうからバッシングされそう、おいランキング操作して調子に乗るな、ただの一つの指標だろ、と。*4

OISTがそうならなかったのは、カラクリが分かりにくかったからなのか、広報がうまかったのか、良く分からないけど、OISTが無名すぎてそういう日本スゴイ的な何かに飢えていた日本国民にうまくハマっただけなのかもしれない。

あと、大学ランキングってこれ以外にもたくさんあるのだけど、そのあたりのまとめはこちらに詳しい。NormalizedとOISTの話も出てきます。

良い成果が出るなら湯水のように税金を使ってよいか?

あともう一つのポイントはこれ。OISTは現在おそらく80PIくらいの規模で、ここ数年は年間予算が200億円くらいのはず。スタートアップ予算はどういう研究をやるかにもよるけど、多い人は一人で数億円規模らしい。要するに、まーそんだけお金つぎ込めばすでに成果を持っている大物を引っ張ることも出来るし、このくらいの成果出るのは当たり前じゃない?という意見も聞いたことがある。簡単に言うとね、全研究室がみんな科研費基盤S持ってる大学を想像すればよいと思う。で、こういった前提条件を知ったうえで、Normalizedランキングで日本1位になりました!って聞くとさ、そりゃそうだよ、ってならない?

で、そりゃそうだよ、の先に、この結果が成功なのか失敗なのかって話があると思うのだけど、そこはやっぱり経営効率的なことも含めて語るべきだと個人的には思うのだけど、一方で、どんなに効率が悪かったとしても、

ちゃんと投資すれば成果が出ることを証明したという一点において成功

だという考えもあるとは思う。だって、大学や研究機関の「リターン」を評価するのってとても難しいし(そもそも結果を評価すべきじゃないという概念もあるし)、国全体の研究力が落ちてる原因は投資不足だろう、という批判が噴出している中でこれが出たのはとても良かったと思うもの。

その難問である経営効率的な評価を果敢に行ったのが財務省で(まー無駄遣いされたら困るので当たり前だ)、前述の執行調査で、教員一人当たりのコスト、TOP10%論文・TOP1%論文の1論文当たりの運営費、という「コストで正規化」したアウトプット数値でOISTを酷評しました(この指標も普通の大学と大学院大学を比較したりとか、安直すぎるよなーとは思う)。これにOISTは一応反論はしたようだけど、お手盛り正規化ランキングでアピールしたら、別の安直正規化指標でコケにされるという、上記のような背景を知る人間からしたら、どっちもポジショントークだろ!っていう、これが数か月の間に起こるの、なんのコント見せられてるの?という感じなわけで(笑)

このポジショントーク合戦は、世論を味方につけたOISTの勝ちかと思いきや、やはり財布握ってる人最強で、予算引き締めが始まってるらしく、対抗するために9位を使い続けるしかないと。そうなるとやっぱりそれしか成果ネタがないんじゃねーかという疑惑が出てきてしまうので、OISTさんには是非、別なお手盛り評価軸を打ち出してアッピールしていただきたい。

沖縄振興予算だったよね?

ところで、OISTの予算って、沖縄振興予算を使ってるから、沖縄の自立的発展に貢献することを求められているはずなんだけど、沖縄の人は、1回だけ取った世界9位という名誉みたいなお手盛り成果だけで満足なのかな?今のところ、目に見えて経済発展に寄与しているようには見えないけど、一括交付金じゃないからどうでもいいって感じなのかな?一応、経済効果の評価は行っていて、ここの戦略計画要約のp.28に結果が載っているので抜粋。

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OISTの経済効果

2022年の予測値で見ると、300億円がOISTに投入され、沖縄に対する付加価値は約190億円(濃いオレンジ部分)であるらしい。ん?文章では投資された100円に対して、163円が地元経済に還元され、と書いてあるけど、163円の内の100円はOIST投資分だよね、経済効果ってそういう計算なんだっけ?追加の付加価値が投資分より小さいなら何もせずに投資分を県民にばら撒いちゃった方が早くね?ってことにはならないのかね?誰か教えて偉い人。だって、OISTに投下した分なんてほんのちょっとのマージンだけ残してほとんど内地とか海外の企業に流れてんじゃないかな。良く言われる沖縄のザル経済と同じ構図。

さて、また話がずれたので元に戻す。

これもさっきと結論は一緒で、たった一つのランキング9位で、OISTを成功事例として語るのは非常に危険だよね、という話だと思う。なお、大学の評価とかでTop10%論文とかQ値とかをいじったことがある人ならOISTが別の指標でも良い結果を出していることは知っていると思うし、そこは否定しない。

ただ、投入した資金に見合った成果が出たのか、という評価は最終的には何かしらの形で必要になると思う、Max Planckが数年に一度のノーベル賞という成果を掲げているように。科学技術力の向上には投資を増やす必要があるということが正しいとしても、投入できる税金って無限じゃないもの。OISTは今、財務省に怒られちゃって予算を減らされている最中のようだから、これからが正念場じゃないかな、予算ジャブジャブバブルがはじけた今後(それでも相当な予算規模)もアウトプットを維持できるのか、沖縄に経済効果をもたらすことができるのか、日本のアカデミアに何か還元できるのか、10年スパンくらいで評価する話だよね。そうなったときに改めて、OISTの先進的な取り組みが成果に結び付いたんだって胸張って言ったら良いと思うんだよ、9位!とかじゃなくてさ。

とか言って、10年後も東大越え世界9位ってやってたらそれはそれで笑えるので、是非OISTの広報担当には今後も東大越え刷り込みを頑張ってほしいと思う。

公的資金だからこそNature Indexじゃないだろ

それと、OISTのように安定した公的資金が潤沢に投入されている組織だからこそ、Nature Indexのような指標にこだわらずに運営してほしいと思う。以下は、インパクトファクターについての秋篠宮文仁親王のお言葉をwikipediaから引用したもの。

...例えば論文数ですとか、インパクトファクターの高いところに掲載されるかどうかなどですね。それは非常に大事なことではあっても、それのみで学術・学問が判断されることになると、地道に長い年月かけて行われて、良い成果が出るということがだんだんに無くなってくるのではないかなと、気にかかるときもあります。...

OISTがNature Indexで9位を言えば言うほど、中の人たちはそういう論文に出やすい研究しないと、みたいな足枷になったりはしないのかね?たびたびパワハラが報道される組織だからもっと別な心配があって、大した足枷ではないのかもね*5。ただ、秋篠宮さまがおっしゃってるような地道な研究もしっかり評価するような仕組みは、OISTだからこそ持っていて欲しいとは思うし*6、それゆえNature Index9位みたいな自己評価を積極的にバンバン使うのは残念でしょうがないし、もし将来こういう指標に引っかからなくなった時には、投入した資金のわりに成果(ランキング上位入賞)が出ていない、という安易な批評に繋がり、逆に自分の首を絞めることになると思う。

実験場だったんだ

というか、冒頭にも書いた8/26に公開された総合科学技術・イノベーション会議の中間とりまとめを読んで、OISTの設立の趣旨はそもそも公的資金で基礎研究をやることじゃなかったんだって思い出したというか、これ読んで、政府が目指す「世界と伍する研究大学」の実験場がOISTだったんだね、と合点がいった。ここに散りばめられているキーワードはほとんどがOISTの中で良く見ていたワードだった。イノベーションエコシステム、寄附金の拡充、スタートアップ、民間含む外部資金獲得、世界的な研究者獲得、優秀な博士課程学生獲得、テニュア審査、研究支援者登用、プロボスト、専門職員登用。

OISTがNature Indexで9位とか言いまくるし、外部資金が取れてないのでほぼ補助金のまま運営されてるから、「潤沢な公的資金で基礎研究の成果を出し成功した研究所」的な扱いになってるけど、そもそもそれは通過点というか求められていることのほんの一部だということで、こっから「伍する大学」として自律的なエコシステムを作るところまでがゴールなので、「稼げる大学」のアンチテーゼとして、OISTみたいな成功例があるのに、というのはいろんな意味で誤解なわけです。

今、日本政府が推し進めてきた、「選択と集中」が失敗したことが色々なところで議論されているけども、OISTがNature Indexの成果を強調すればするほど、著名論文誌での成果への「選択と集中」を進めるだけで、それが健全だとは私には思えない*7。それと、現状は、既に成果を持っている人・出しつつある人、を大枚はたいて連れてきて成果をあげるスタイルみたいなところがあるので、これがサステイナブルなモデルかと言われると甚だ疑問でもある。まースタートダッシュを決めるという意味ではこれが正解だったのかもしれないが、そろそろ転換点なんじゃないのかな?というか、これが成功モデルだとして、全国に何個OIST作る作るつもりなの?1個200億円ですけど。乱暴な言い方だけど、OIST10個で日本の科研費総額と一緒。

何が言いたいかというと、OISTみたいにお金をツッコめば何かしら良い結果が出るのは分かった、でも同じ規模のお金を満遍なく配るのは物理的に不可能*8、そーすると、必然的にどこに集中してお金を配るのか、みたいな話になるわけで、じゃーどこに集中するのってことになって、その基準がNature Index的な評価軸になったら、それって今失敗って言われてる選択と集中とどう違うのか?って思うわけです。最近世界トップに立ったと言われている中国の中のトップであるCASとは正反対の戦略なわけですよ。

それとさ、ここ数年、商業出版誌のボッタクリ経営にしびれを切らした各国アカデミアが、商業出版社とのガチバトルを繰り広げている時に、一商業出版社に肩入れするような行動は、公的資金が投入された機関としては慎むべきじゃないの、という倫理的な疑問もあるのよね、今さかんにオープンアクセスやオープンサイエンスの話をしているこのタイミングでさ。

しかしあれだな、書けば書くほど、大学や研究への公的資金投入の評価って何が正解なのかさっぱり分からんくなるので、この話はここでやめよう。長々と書いたけど、一応まとめる。

まとめ

  • こういう指標は、所詮物事のある側面の一部分を切り取っただけのものだし、データをsubjectiveにいじるなんてのは当たり前のことだから、他の大学も自画自賛ランキングを積極的に広報に使ったらよいと思う(そんな予算無いわって怒られそう笑)けど、受け取る側もリテラシーを持つべきだよね。
  • だけど、それだけに頼っちゃうのはまずいし、一指標だけでうちの方が上ですマウントをかますのは恥ずかしいし、何年も同じネタ刷り込み続けると、それだけしか成果がないんじゃないかって勘ぐられるよ。
  • 沖縄振興予算(国税)で運営しているのであれば、沖縄にどれだけ貢献しているのかとか、今出ている成果を日本にどうやってフィードバックしていくのか、とかを評価しないとダメよね。
  • あと、せっかく潤沢な公的資金持ってるんだから、Nature Indexみたいな指標に自ら振り回されるような自己評価広報は非常に残念。
  • そもそもOISTって、公的資金で結果が出ることを目指して作られたわけじゃなくて、米英の後追いモデル「世界に伍する大学」の試験場。
  • まーなんだかんだ言って、OISTそのものがクソでかい社会実験みたいなもんだと思っているので、上手くいったところ、いかなかったところ、きちんとデータを見て将来に活かしてほしい。けど、なんつーか、中にいると悪いことは見えなかったことにする文化というか、批判的な人は抹殺されるような空気だし*9、外は外でデータに基づかない政治や、法律を解釈で捻じ曲げる「ガバナンス」とか、それを支持する本邦を見てると無理なんだろうなーとも思うので、そう考えると、OISTで消化されている国税なんて五輪ピックに比べたら吹けば飛ぶような額だし、国が衰退基調から復活するとしてもその頃には私はもう死んでるだろうから、もっと自由にどんどんやって、これからもOISTスゲー、日本スゲーってやり続けるのが正解なような気もしてきた。

 おわり 

 

*1:DS社はNature Publishingからスピンアウトした会社の模様。発注は2回に分かれていて、1回目が「Bibliometric benchmarking and data visualization services」で、2回目は「Research data analytics and visualization services」。ちなみに両方とも随意契約であるが、2件足すとOISTの入札基準額の500万円を超える。

*2:ここでアカデミアの特に図書館とか業績評価とかしてる人なら、なんでScopusじゃなくてDimensions?ってなる人もいると思う、だって全論文ならScopusとかWeb of Scienceとかあるじゃない、と。そこが最初に書いた、後発のDimensionsを売りたいもともとNature系のDS社とWin-Winだったんじゃないか、という妄想に繋がるわけです。

*3:NormalizedのランキングでShare Rankという列ヘッダーをクリックすると並べ替えられる。ただ、このランキングだとHarvardが1位になってるしOISTは360位だし、元の標準のランキングと順位が違うのでどーゆー処理してんのか謎だし、本当に上記の3機関が100位以下なのかも疑問

*4:東北大がベネッセに外注してそうなデータは見つけられなかったけど、もし知ってる人がいたら教えて欲しい。

*5:OIST パワハラで検索してみてください、ザクザク出てくるから

*6:実際には、そうじゃない評価軸で評価されてるPIもいそうだなーというのは肌感覚では感じていて、だからこそ公式がNature Index推しをいつまでも続けるのが意味が分からない。

*7:mRNAワクチン開発の研究が、不遇な時代があったというのはそこそこ話題になったよね。カリコー氏のWikipediaで主要論文として記載されている5本のうちNatureIndexに入ってる論文誌のものは2本。

*8:もしかしてこれを望んでいる人もいるのかな、全国18万人の教員に例えば年間5000万円ずつ配ると9兆円くらいかかるけど

*9:事務職員も含めて全員任期制で雇用されるので、5年(研究系は10年)の無期転換権利を得るまでは、批判的な態度は厳禁であり、みんな静かにこっそり生きてるようなイメージ。でないと私みたいに(以下自粛)...